武甲山

武甲山放射能測定登山

測定日:2017716日(日) 測定時間:8:4516:00

気象条件:天候; 晴れ(15:30くらいから小雨がポツポツときました)

     風;  登り 微風、 下り 無風

測定地:武甲山登山ルート(横瀬町横瀬から秩父市上影森)

測定方法:地上高5cmを歩行による移動測定、地上高5cm50cmの定点測定 

1.移動測定(0.048μSv/h)

(1)登りの移動平均(表参道第一の鳥居から山頂まで) 0.039μSv/h

(2)下りの移動平均(山頂から土津園先の鳥居まで) 0.058μSv/h

(3)全ルートの移動平均 0.048μSv/h

HSFによる測定登山は初めての試みです。現在、市民測定所深谷は秩父地方の再測定をほぼ完了しています。しかし、痛々しい山容となってしまいましたが、秩父のシンボルでもある武甲山を測定しておくべきだろうという声があり放射能測定登山を行いました。私(吉田)は40年ぶりの登山です。地元山岳会で登山を始めたという篠崎さんと、山のベテラン小林さんが参加してくれることになり、どうにか所期の目的を達成することができました。

 

登山ルートは、横瀬町の山頂にある御嶽神社の表参道にあたる一の鳥居から山頂を目指し、下りは秩父市の土津園(ハニツエン)の奥(登山ルートだと手前)にある同じく御嶽神社の鳥居までのコースです。走行距離は約10km、高低差は約1,000mです。所要時間が約7時間とハードな測定となりました。

2.定点測定等

(1)登り、大杉の広場まで

 

登り口の標高は518mです。駐車場から生川に沿ってはなだらかな登りです。空間線量は、福島第一原発の事故から6年目ですが少し高めな感じです。山頂までは、番地を表す石碑があります。川沿いの道から本格的な登山道に入り暫く登ると、水場でもある不動滝があります(十八丁目)。ここを最初の定点測定ポイントにしました。元気なご老人が2ℓの空のペットボトルを整理しています。小林さんによると、体力に余裕のある人がここの水を山頂のトイレ用に運ぶのだそうです。この地点は地上871mです。測定は祠前で行いました。

 

この後、少しきつめな登山がつづきます。まずは大杉の広場を目指して進むのですが、休み休みの登山になってしまいます。高度が上がるに連れて空間線量がどんどん低くなります。そんなわけで二十三丁目でも定点測定することにしました。降りてくる人に山頂は何丁目か聞きましたらなんと五十二丁目、まだまだ先は長いと覚悟して、どうにか大杉の広場に着きました。標高は1000mで急勾配の間にある気持ちの良い空間です。大杉を前にたくさんの人が休んでいます。

 

(2)山頂

予定より遅れて山頂に着きました。昼食の間、しばしの休憩です。神社前にはたくさんのグループが食事を取ったり休んだりしています。結構広い空間です。ここから少し登ったところが実際の山頂です。高さは1,304mですが、かつては30mほど高かったそうです。

 ちょっと信じられないのですが、山頂は石灰岩の採掘で削られていて、神社も移動したとか。秩父夜祭りは、123日に秩父神社の女神(妙見様)と武甲山の男神(龍神様)が逢瀬する日でもあります。山全体が御神体でもある武甲山は、頭をちょん切られているのですね。そんなわけで、北面は削り取られた崖になっています。武甲山には良質な石灰岩の大鉱床があり、日本の高度成長を支え続けてきたのです。昔、秩父に入ると発破の音が響いていました。小林さんによると今は採掘方法が改良されていて響かないようです。

 山頂付近の空間線量は低く安心できる数値です。しかし、土壌からは1,150/kgという数値が測定されました。スペクトルからセシウムのピークが確認出来ます。東日本土壌プロジェクトで深谷市と熊谷市を担当して30カ所以上のサンプルを検査しましたが、1,000/kgを超えるところはありませんでした。空間線量測定場所と土壌サンプリング場所は写真より少し東なのですが地面は写真と同じような感じです。空間線量は低いですが、地中はしっかりと汚染された状態です。雨や風、雨水の浸透や流れなど6年間の変化がある訳ですが、このアンバランスは意外でした。

 

 

(3)下り、長者屋敷の頭

 

 

山頂から橋立鍾乳洞へのルートは、急勾配な箇所が多くあります。300mほど下ったところに長者屋敷の頭というなんとも変わった名前の場所に出ます。発破の避難小屋や水場への標識などがあります。ここで定点測定をしました。空間線量は低かったのですが、土壌測定では、なんと4,032/kgを記録しました。ちょっと信じられない数値です。この場所は、平らで休憩するのにちょうどいい岩などもありますが、岩からの放射線ではなく、明らかに福島原発事故由来の放射線であるセシウムです。

 

武甲山は石灰岩と輝綠凝灰岩で出来ているそうです。ともに堆積岩です。ここの石灰岩は珊瑚などから出来ているので自然放射線は多くありません。また、輝綠凝灰岩も堆積岩ですので岩からの放射線はそれほど多くないと思われます。

 

福島第一原子力発電所からの放射性プルーフの塊は那須、日光、赤城、沼田、高山、榛名などを巻き込みながら武甲山にも一定の濃度をもって汚染したものと思います。放射線は半減期にともない現在では当時の50%くらいまで低減しています。また、雨や風などにより移動を繰り返しています。武甲山は、急峻な山ですから雨水とともに流れ落ちる可能性も多いと思います。

 

それでは、なぜこのような値を記録したのでしょうか。まず、この場所が比較的平らであること。落ち葉などが積もっていて土壌を被ったり、土壌の一部をなしているわけです。放射能はせいぜい地表から5cmくらいまでに入り込んで留まっています。たまたまサンプリングした場所は放射線の移動が少なく、当時のまま現在に至っているのかも知れません。さらに地形的な推測からは、山頂方面からの雨水のなどは、一旦この場所で留まり濃縮されている可能性もあります。また、この場所の空間線量は低いのですが、スペクトルからセシウムがハッキリ確認できます。

 

(4)土津園(ハニツエン)まで

 

長者屋敷の頭を出発すると、緩斜面と急斜面が続きますが、緩斜面も慣れていないこともあり大変歩きづらく感じました。急斜面は、岩場のようになっています。岩は石灰岩や凝灰岩と思いますが、自然なのか人工的に配置されたのか解りません。しかしこの急斜面では、HSFは警告音を鳴らし続けました。岩からの自然放射線と福島第一原発事故由来の放射線の相乗作用と思われます。

最後の下りを降りると橋立川の渓谷が待っていました。滝などもありしばしの休憩となりました。冷たい水で顔を洗ったり、タオルで体を拭いたり一山越した満足感と清流に癒やされます。武甲山は独立峰で懐もそれほど深くありませんが水量が意外に多いので驚きます。

ここからは川に沿っての下り道で、渓流では若者たちが釣りを楽しんでいました。最後の橋を渡ると少し広い空間に出ました。車が1台止まっています。おそらく彼らのものでしょう。やっと一般車道(ほとんど車は入ってこない)に出られましたが、ここもくせ者でした。だらだらと下り坂が続きます。この距離が意外に長く、小林さんはクールダウンにちょうどいいといっていましたが疲れました。土津園が見えてきた所に御嶽山の鳥居がありました。ここを最後の定点ポイントとして、武甲山放射能測定登山を終わりにしました。

3まとめ

今回の登山ルートは、武甲山の東から南面を登り山頂に至り、西に橋立まで下って行くコースです。下りで空間線線量の高いところがありました。特に急斜面にその傾向はあるようです。長者屋敷の頭では、空間線量と土壌分析について再測定が必要かも知れません。(2017727日 吉田)